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絶倫ファクトリー

生産性が高い

「安全の放棄」という逆説

ゲーテッド・コミュニティ

テポドン!テポドン!
お祭り騒ぎですね。以上。

 ゲーテッド・コミュニティについてちょこっと気になったので一つ。
バイオメトリクスだなんだと、静脈や指紋による生体認証が最近流行ってますが、うちの大学の宿舎には去年から手の甲の静脈認証が導入されてます。

 ところが。これがトラブル続出。IDを入れて、手の甲を認証装置に当てるんですが、全然認証してくれない。理由はいろいろあったんですが、とにかく使えないんです。冬の日に10分扉が開かないまま外に締め出されるとか冗談じゃない。そりゃあ扉ごとふさいじゃえば安全は守られるでしょうが、住んでる人間はどうなるんだという。こんな調子だったんで、今年の1・2月にこの静脈認証の端末自体を叩き壊すという事件が発生しました。外部の人間ではおそらくない。学生に、しかもその宿舎に居住している人間によるものです。これはある種、学生による安全の放棄です。

 ここで注目すべきなのは学生の判断が、生活における優先順位を「利便性>安全」としたところです。これは果たして大学側と学生側、どちらが悪いのか。そりゃ器物破損なのでやったこと自体は学生が悪いんですが、そういう態度に出ざるをえないほどシステムの状態が悪かったとも言えます。*1
 先日のリスクの可視化の話を持ち出せば、学生側がきちんと宿舎における犯罪のリスクを認識してなかったという可能性がありますが、おそらくそれは低い。宿舎が決して安全じゃないのは四月の入学時点でアナウンスもあったし、実際事件も発生していた。ではなぜ彼らは端末の破壊に出たのか。おそらくそれは単純に「不便だったから」という「不快感」によるものでしょう。

 僕のゼミの教授はうちの大学出身で、遅れてやってきた学生運動の真っ只中の人間なんですが、そうした世代から言わせれば、静脈認証システムの導入など考えられない。大学側の管理を受け入れてしまう学生の神経がよく分からないそうです。

 確かにシステム導入の際、学生からは、試験運用の時期を設ける要求は出たものの大規模な反対運動などは起きませんでした。それはおそらく彼らの中でも宿舎や日本社会全体に対する「体感治安」が低下していたせいでしょう。そこには大学側の権力だとか、そういう小難しい話は一切抜き。不安だからいいじゃないという、これまた「不快感」による賛同があるだけ。

 ということは、「快/不快」というスイッチのオン/オフによる反応の重視*2によって導入されたセキュリティは、同じスイッチのオン/オフによって容易に「内側から」破壊される可能性があるということです。これは似たような生体認証によるゲーテッド・コミュニティ化が進む日本で、重要な問題でしょう。セキュリティシステム導入にかかる費用が下がり、こうしたシステムがより一般化した場合(すでになりつつあります)、こうした一見逆説とも取れる「安全の放棄」もまた一般化するかもしれません。これは、かの「割れ窓理論」に基づいた場合見た目以上に危険な状態を招きます。
 
 ここで考慮すべきなのは、実際にどのレベルまでの事態が発生したらこうした技術に頼るべきなのかという「安全のボーダーライン」*3をどこに規定するかということでしょう。現状は、とりあえず不安だ→新しい技術ができたらしい→とりあえず安全そうだから導入してみっぺ という安易な技術決定論がまかり通っています。かといって、警備員(や警官)を宿舎なり街中なりにずらっとならべ、「ゼロ・トレランス(不寛容)」の導入を図るのもちょっとなぁと思います。
 ただこういっては何ですが、いくら厳密な防犯システムを敷いても、つまり安全のボーダーラインを限りなく下限に近づけても、犯罪をゼロにするのは不可能です。それを無理矢理ゼロに押さえ込もうとして安易にシステムを取り入れた場合・・・おそらくそのデメリットはメリットを超えるだろうということは上記の議論の通りなのです。

*1:この件に関しては、静脈認証の市場に新規参入を図っているメーカーが、端末代をタダにしたため、大学側がシステムを精査せずコスト面だけで導入を決めたという疑惑があります

*2:東浩紀の言う「動物化

*3:昨日のコメント欄参照