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「文化系トークラジオ Life」―ロストジェネレーションについて―


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いやー素晴らしい。この本は、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeというラジオ番組の内容を書籍化したもので、僕は普段podcastでこれを聞いている。メインパーソナリティは社会学者の鈴木謙介で、サブとして仲俣暁生さんや津田大介さんが参加している。

特に僕が共感を覚えたのは、鈴木謙介が「ロストジェネレーション」について熱く語っているところ。ロストジェネレーションというのは本来日本の経済構造が変化する中で、運悪く就職氷河期に当たってしまった人々のことなんだけれど、世間ではそういった構造の変化というのをふっとばして「フリーター」「ひきこもり」「ニート」と括って「自己責任」の名のもと怠け者扱いしてるんじゃないかと。「こっちだって好きでロストしてんじゃねぇ!」という怒りを彼はラジオの番組内でぶちまけていた。本人曰く、「よくスタッフが止めに入らなかった」ぐらいの怒りっぷり。

で、たまたま授業の関係で平行して読んでいた本が

これなんだけど、これを参考にするとロストジェネレーションていうのはいわば「見ちゃった」世代なんじゃないかと思う。

ひきこもりの人って*1、「なぜ生きるのか」「なぜ働くのか」といった疑問を素朴に持ってしまっている人が多い。普通の人はそういう疑問を特に持たず、しかれたレールにそって歩み、しかるべきポジションに落ち着いて日々のルーティーンを送る。しかしひきこもりの人々は、何らかのきっかけで、そういう問い持ってしまった人なのだ。その問いは、まずレールにのって決まったルーティーンを送っていればまず持ち得ないし、ルーティーンを送ることがその疑問の答えとなる。しかし一度疑問を抱いてしまった以上、答えが出ない限りレールには乗れないしルーティーンを送ることもできない。レールにのってルーティーンを送るという「当たり前」に、素朴な疑問を抱いてしまった人々なのだ。

で、ロストジェネレーションに話を戻すと、彼らの世代は、それまで前提とされてきた「学卒→就職活動→就職→定年までその会社に勤める」というレールが崩れてしまい、ひきこもりの人たちと同じように「当たり前」とされてきたレール・日々のルーティンに疑問を抱いてしまった人々なのではないか。そろって就職・終身雇用という前提が崩れるのを一度「見ちゃった」人間に、さっさとあるべきレールに戻れと言ってもそれは無理な話であるし、社会もそれを拒んでいるように思える。
もしも人間を山手線の電車だとしたら、環状に走るレールが社会の「前提」だったとする。それまではきちんとレールが整備され、あまり滞りなく電車が走っていたのだが、いざロストジェネレーションの人々がレールの上を走ろうとしたときには、レールはあっちこっちで脱線してるし、そもそもどっからレールに乗ればいいのか分からない。レールに乗れる電車の数が急激に制限されてしまった。そりゃひどいよ、っていう話。

そしてそういう状況があるにもかかわらず、レールに乗れない人たちが「電車の出来が悪い」って言われたら、そりゃ鈴木謙介じゃなくても怒るよね、と僕は勝手に感じてしまった。

で、今ちょうど就職活動をしている僕らの世代は、ロストジェネレーションが苦しんでいるのを間近で見ている世代でもある。中学生や高校生のときにやれ不景気だやれ就職氷河期だ、ワーキングプアだなんだと言われ、「社会に出るのってこんなに怖くてつらいんですよ」という言説にまみれてきた世代なのだ。一方で、景気そのものはどうか知らないが、少なくとも新卒雇用については団塊の世代がごそっと抜けるためかなり回復しており、いけいけどんどんで押せば何とかなるんじゃない?みたいな雰囲気も確かにある。多分これをどう受け止めて自分の振る舞いに反映させていくかは、個人によってかなり差が出るのではないか、と思っている。*2

*1:ここでひきこもりを出すのは比喩として分かりやすいからであって、決してロストジェネレーションひきこもり世代という図式を作りたいわけではない

*2:ちなみに僕は前者の言説の影響をモロに受けている