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弱者の代弁者?

加藤智大は格差社会の代弁者ではない - the deconstruKction of right

秋葉原の事件に関してもう書くつもりはなかったのだけれど、一つだけ。
この上記リンクのエントリのコメント欄が荒れ気味なのがよく分からない。この事件に関して出たエントリの中ではかなり秀逸なものだと思うのだけれど。

まずid:naoya_fujita氏は事件の犯人のような派遣労働者を下に見ていたりなどしていない。それどころか彼のエントリの主眼はこの事件そのものですらない。これは事件を巡る言説に対する言説、メタ言説である。犯人とされる加藤智大がもし万が一貧困労働者の代弁者だとしたならば、彼の本来の標的であるエスタブリッシュ層はセキュリティを上げ(現状としてそういう傾向はある)、さらに勢いづいた赤木智弘のシンパみたいのがテロを起こすモチベーションになる。

だがそれは構造的におかしい、彼は代弁者ではない、彼を代弁者に仕立て上げてはならない、というロジックをid:naoya_fujitaは立てているのに、どうもコメント欄もブックマークコメントも誤読した捨て台詞が付いている印象を受ける。

ロスジェネ 創刊号

ロスジェネ 創刊号

「ロスジェネ」を読んだ。昨日はこの雑誌についてのエントリを書こうと思っていたのだが、事件のせいで吹っ飛んでしまった。だが上記のエントリを読んで、ふと思い出したのだ。冒頭の対談、ロスジェネ編集長の浅尾氏と「ひっぱたきたい」でおなじみの赤木氏の対談を。

浅尾 しかしひっぱたく相手は丸山眞男ではなくて、ブッシュと福田と御手洗だと。赤木さんは、僕のこの意見に対してはどうなんですか。

赤木 別にそれでもいいんですけど、だからといって正社員を容認できないと思うんです。そのへんはまとめて自分たちの敵であると。正社員を敵とみなさなきゃいけないような状況になってしまっている。

浅尾 主敵は正社員の方が近いって感じ。

赤木 そうですね。やっぱり近さがあるが故に憎たらしいし、近さはまた連帯の可能性になっていきますから、その部分をどうにかしないとどうしようもない。
(p.15)

自分は正社員が敵だと言いますけど、正社員は非正規から恨まれていることを知りながらも、正社員は非正規の側と連帯しなきゃいけないと思うんです。恨むなとか、ひっぱたくなとか言われると、恨まれようがひっぱたかれようが連帯が必要なら一緒にたたかったらいいじゃないかと、すごく思うのです。
(p.29)

エスタブリッシュな富裕層より手近な正社員層からぶんどる。これは上記のエントリで指摘されていた帰結である。それはエスタブリッシュ層を打倒する「革命」でも、宇宙人との「戦争」でもない。単なる内戦である。
「社会的弱者」による殺戮を勝手に「テロ」に仕立て上げ、「代弁者」「具現者」などと偶像化することの帰結は、まさにこの文章に表れているのではないか。敵意を向けられ脅されて、なおその相手と連帯しようと思う人などいるのだろうか?憎悪の連鎖、などと手垢の付いたクリシェで済ましたくは無いが、しかしそういう流れしか浮かんでこない。

加藤智大にせよ赤木智弘にせよ、苦しむ人の代弁者ではない。代弁者にしてはいけない。結果苦しむ人が苦しむ人を傷つける内戦モードに突入する。笑うのは山の頂上でその様子を伺う人たちだけだ。