読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

絶倫ファクトリー

生産性が高い

『POSSE』を手にとってみた。

社会学 格差社会問題

『POSSE』、悪くないと思うんだけどなぁ。

雑誌『POSSE』ホームページ|NPO法人POSSE
雑誌『POSSE』を9月に創刊します。 - NPO法人POSSE(ポッセ) member's blog

当事者に売るのか否か

ちょっとばかしはてなまわりで話題になっている労働問題誌(同人誌)『POSSE』。機会があったので読んでみた。POSSEは確かこれまでフリーペーパーを発行しているNPOだと記憶していたのだが、今回同人誌という形に「ステップアップ」したようだ。

まず既にあった議論として、値段が高い、つまりこれじゃ労働問題の当事者に買ってもらえないのではないかという話があった。上記リンクから拝見できる発行元の方の話をそのまま鵜呑みにすれば、売る方も当事者、つまり現場で実際に働き苦境にある人々をターゲットにしてはいないのだろう。
ただそもそも、こうした労働問題を扱う雑誌を現場の人間に売りつけて、それで事態が好転するようならば、最初から彼らは自分たちの力でどうにか出来ているはずだとも思える。それが出来ないからこそ、当事者以外の人間とのアクセスポイントが必要となる。
無論、苦境にある者が当事者同士で連帯することの意味は多分にある。1人より2人でいれば、2人でいるより10にんでいれば、コネクションや情報がその中で流通し、相互にメリットが発生する可能性がある。ただし、それだけでは限界がある。いわゆる「社会関係資本」の話をすれば、自分たちとは共通する部分を持ちながら、しかし自分たちとは違うものを持つものとの連帯がもっとも双方にメリットがある。そろいもそろって同じ武器を持っていては、勝てる相手の幅が広がらない。
当事者に届けなければ、単に彼らを食い物にしているだけではないか、という意見もあったが、むしろ当事者の話を当事者に売りつけて金を巻き上げる、マッチポンプ商法もそれはそれでタチが悪い気がする。広告頼みでフリーペーパーにしても、広告主は派遣会社というのがオチだろう。

「実践のための理論」のために

で、中身の話である。奥付にある編集後記に「実践のための理論を構築する場」という言葉が書いてある。「実践のための理論」というフレーズは、星の数ほどのメディアが唱え、また同じくらいの数のメディアが夢破れて散っていった。なので個人的にはほとんど死亡フラグ扱いなのだが、そもそも何が「実践」で何が「理論」なのか、そこをはっきりさせないと雑誌としてもフォーカスがぼけてしまう可能性がある。

理論を実践に落とし込むためには、現状認識とその先の見通しという静的 static なモードと、その間をどう架橋するかという動的 dynamic なモードの二つが必要になる。いわゆる「傾向と対策」である。

ロスジェネやワーキングプアという言葉が現れだしたとき、テレビや書籍といったマスメディアで氾濫したのは、現場で働く人間がいかに苦境にあるか、という現状認識についての言説であった。雑誌『ロスジェネ』周りの運動は、それを当事者の側から訴えたバージョンである。
一方で、ではその現状の先、いかなる将来像が理想なのかという話は、主にアカデミックの場で行われているように見える。

社会的排除・包摂と社会政策 (シリーズ・新しい社会政策の課題と挑戦)

社会的排除・包摂と社会政策 (シリーズ・新しい社会政策の課題と挑戦)

この本に限らず、このシリーズは専門家でなくても分かりやすい分析と、その先の青写真についての言説が載っているのでお勧め。

これら2つのファクターを横断し、繋げていく活動が「実践」である。『POSSE』がその志を完遂するためには、現状認識と将来像の両方を描いた上で、具体的にその間を架橋する方法論を提示する必要がある。

手にとって見て読んでみたところ、僕は結構いい雑誌なのではないかと思った。実際の労働者の現状だけでなく、マンガというメディアにおいていかに派遣労働者が表象されているか、という分析もある。問題の発見とその是正についての議論も、多分に含まれているように思えた。

●「派遣労働運動のこれから」
  関根秀一郎(派遣ユニオン

●「権利主張はいかにして可能か」
  道幸哲也北海道大学教授・NPO職場の権利教育ネットワーク)

の2コンテンツが個人的には上記のフォーカスに特にクリティカルにはまっているように見えた。

ただ弱点もある。現状分析の先にある、ある程度大きなグランドデザインのような分析が、議論の俎上にあまり無い。逆に言えばそうした議論を呼び込むためにNPOの中の人が「ターゲットはインテリ」としたのかもしれない。縁取りされたビジョンを描けるような議論がこの先もっと出来るのかどうか、呼び込めるのかどうかが多分『POSSE』の成否の鍵であるように思う。

また、こうした労働問題が議論される時、議論の俎上に上がるのは大体労働者、企業、正社員、非正規雇用労働者、労働法といったファクターである。しかし企業が、非正規雇用で持って人を低賃金で働かせ、労働力を収奪しようとするのは、そうでもしないと消費者から金を取れないからである。「お客様は神様です」が実践されればされるほど、そして消費者が消費者的態度を先鋭化させればさせるほど、労働の現場は窮屈になっていく。

機械の代替物として働く労働者のいる一方、徹底したコミュニケーション技術を叩き込まれ、自己の感情のコントロールを強制される「感情労働」の問題もある。主に直接消費者と対峙する場で働く人間の問題であるが、どちらにせよ消費者というもう大きくならないことが分かっているパイの奪い合いの帰結である。根本的な問題の解決には、労働者の側だけでなく消費者のニーズそのものを縮小させる/する議論が必要になるはずなのだが、あまり見ない。消費と生産のスケールを全体に縮小して循環をスムーズにしようという議論であり、コンパクトシティなどはこれの系譜なのだが、もう少しフォーカスを絞った議論があると良いと思う。現状認識のその先にある将来像を考える際、欠かせないファクターの一つだろう。

「泥水の掛け合い」を避けながら

以上、中身について細かい揚げ足取りはいくらでも出来るが、いわゆる「社会的弱者」に対して外野がどうコミットするかを考えようとするとき、その方法/方法論をめぐって外野同士が泥水の掛け合い馬糞の投げ合いに終始し、結局当事者は放置されるというのは古今東西繰り返されてきたことなので、僕の本意ではない。
また流通の方法に関して確かに改善すべきところはあるのだろう。おそらく現状では、『POSSE』を手に取る人間は、既存の労働問題に関する議論に興味のあった人間に限られる。「マンガに見る若者の労働と貧困」という特集などキャッチーさは出そうとしているが、コンテンツの問題にとどまらない部分もある。
だがそうした議論も結局のところ「じゃそんなにアイディアあんならお前がやれや」というジョーカーが待ち受けているのでこれまた不毛である。

なので僕個人としてはこうしてブログで「良い雑誌ですよ」とつぶやく程度に留めておくこととする。ただやっぱりアマゾンで買えないのはちょっとネックかな。