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第3回芸術係数ダイアローグ「「グーグル的建築家像をめざして-「批判的工学主義」の可能性」を読む」に参加してきた。

芸術係数ダイアローグは、Twitterでちょくちょく目にしたのだが、今回はゲストが藤村龍至氏ということで参加した。
地域社会圏モデル ――国家と個人のあいだを構想せよ (建築のちから)が積読だったため、彼の「都市2.0モデルに向けて ――郊外型地域社会圏の可能性」と東浩紀×山本理顕×藤村龍至の対談を詰め込んでから会場に向かう。

第3回芸術係数ダイアローグ

「グーグル的建築家像をめざして-「批判的工学主義」の可能性」(『思想地図vol.3』所収)を読む

話の前半は批判的工学主義/超線形設計プロセス論の話なので、おさらい……と思ったらスライド資料が少し変わっていた。そういえば藤村氏本人がどこかで「スライドは毎回ちょっとずつ変えてる」と仰っていたような気がする。続く「ROME2.0」の話と「都市2.0」の話に接続させる形で、「ARCHITECT 2.0」としてまとめられていた。

都市2.0

磯崎新のハイパービレッジ論―中央集権型からユビキタスな情報都市へ―は、ユビキタス化し、バラバラになりつつも情報技術の実相によって繋がり合う都市を想定しているようだが、そのようにバージョンアップの進む都市と、依然としてスプロールを続ける都市の二層構造になるのでは、というのが「都市2.0」のキモでらしい。実際に流入がいまだ続く東京と、インフラはあるけれど人間の行き来は分断されている地方という現実を見れば、かなり妥当な議論だと感じた。
ちなみに『地域社会圏モデル』でも頻繁に参照されたコンビニエンスストアの話だが、こんなニュースが最近あった。

ローソン店頭を“メディア化” ドコモなど出資の新会社、デジタルサイネージ展開 - ITmedia ニュース

デジタルサイネージは一見すると単なる屋外ディスプレイだが、サーバーから端末にデータを配信する仕組みになっており、ユーザーとのインタラクションが可能な端末もある。単に決まったプログラムをスタンドアロンで動かすものではない。『地域社会圏モデル』で東氏が「コンビニはインターフェースだ」と話していたが、モノのハブという役割に加えて情報のハブという役割も今後コンビニが担っていくのかもしれない。

メディア戦略の背景

セッションのタイトルにもある「Google的建築家像」というのは、建築のクライアントをユーザーとして、必要な条件(クエリ)を入れればクライアントが本当に必要としているアウトプットを出せる、といった相互関係を想定しているのだと理解している。Googleは検索エンジンの中ではわりと後発だったのだが、またたく間にYahoo! などのライバルたちからシェアを奪い去っていった。それはユーザー側から見てその使い勝手の良さが段違いで、そのことが口コミやメディアを通じて喧伝されたことによるところが大きいのだろう。ところが建築は、そういったユーザーの利用体験が評価として建築家の側にフィードバックされるシステムがない。一回建ててしまったものはやり直しがきかないという特性によるものなのだろうか。とにかく、超線形設計プロセス論が諸条件に最適化した建築物をいくら生み出そうとも、最適化されたことによる利用者の評価が藤村氏の評価に必ずしも繋がらない。なので彼は自分の理論を実際のプロダクトに落とし込みつつ、それとは別に彼のプロセス論が広まるためのパスを自分で作らなければいけない。これは藤村氏に限らず、また建築にも限った話ではない、「良いものを作ったからと言って広まるわけではない」問題の一つだ。彼が既存メディアに露出しつつ、自ら積極的にメディアを作っていくのは、こうした背景があるのだろう。ここでいうメディアは、雑誌やブログに加えて、RLAJや今回のようなイベントも当然含む。

超線形設計プロセス論と教育

以前、藤村氏と濱野智史氏の対談を聞きに行ったことがあった。そこで「Googleってそもそもユーザー側が自分の欲しい情報と、それにマッチするクエリが頭に入ってないと使いこなせないですよね=超線形設計プロセス論て建築家がクライアントや周囲の環境からクエリを引き出す能力に相当依存してませんか」と茶々を入れた記憶があるのだが、藤村氏の答えは「そりゃそうだ。だから教育とワンセットであり、かつ教育の場面で有効な手段」だった。なので、昨日のセッションで首都大の学生が超線形設計プロセス論に基づいて作った模型がずらっと教室に並ぶ写真を見たときは、かなりインパクトがあった。クエリを引き出す能力に依存する、ということは、裏返せば教育の現場ではその能力を鍛える必要性が絶対に発生するということだ。そしてこのプロセスがきちんと学生に伝わるならば、よく懸念される規模の問題にも対処できることになる。組織化して大規模な建築物を扱った際にも、きちんとブレのない方法論で建築を生成することが可能になるからだ。