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絶倫ファクトリー

生産性が高い

神保町奇譚

神保町に越してきて十日近く経つが、やれ片付けだやれ買い物だでちっとも街歩きが出来ず、ようやく今日それが叶った。

家の目の前にあるワンダーで出久根達郎の『古本奇譚』を見かけた。当初買うつもりはなかったのだが、そのあと同じフロアで手に取ったエッセイ本がたまたまその本について言及していて、あれこれはさっき見かけた本じゃないかと元の棚に戻って手に取った。

エッセイ本が言及していたのは、古本奇譚のうち芦原将軍に関する部分だった。芦原将軍は昭和初期に天皇を名乗った精神病患者で、当時のマスコミを騒がせた人物。乃木将軍や伊藤博文と実際に院内で話したこともあるという。Wikipediaの「珍項目」というカテゴリに確か彼の話があって、そのカテゴリを漁っている際に読んだ。

古本奇譚の「狂聖 芦原将軍探索行」は、そんな芦原将軍の正体を探る男の物語。彼が書いた「勅書」(実在する)を買いたいと言われた古本屋の主が、芦原将軍の自叙伝といわれる文書から、様々な推理をする。それだけでも充分面白いのだが、何せ古本から始まる話、場面場面で神保町が出てくる。本を読んでいる喫茶店の向こうが実は物語の舞台だったかもしれないのだ。

この話は一応一人称が私となっている。著者の出久根達郎の体験というわけだ。彼も実際当時は古本屋の店主をしていたので、おかしくはないのだが、さすがに8割方は創作だろう。とはいえ前述のように芦原将軍自体は実在したし、資料も実在のものだ。おまけにこの本を買った場所がちょいちょい出てくるとなると、不思議な感じがする。

「私」は数少ない資料から、友人とともに芦原将軍の正体さがしにのめり込むのだが、ふと気づくと自分も彼の正体がとても気になってくる。世間のお騒がせで終わったはずの彼が実はあんな事件の裏に、、、そんな陰謀論めいた推理を「私」はするのだが、いやいやそんなはずはあるまいと突っ込むたび、「では自分が確かめてみればいいのでは」という気持ちがもたげてくる。窓の外は古本だらけだ。自分で調べられるのではないか?彼にまつわる古本を、探せば良いのでは?

古本屋で見つけた古本に関する古本によって、ますます古本屋にのめり込みそうになった。不思議な街に引っ越してきた。