ゼミでのお話。
- 作者: ロバート・D.パットナム,Robert D. Putnam,柴内康文
- 出版社/メーカー: 柏書房
- 発売日: 2006/04
- メディア: 単行本
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信頼と取引コスト
まだ全部読んだわけじゃないからコメントするのは微妙なんだが。
この本の中で、パットナムは社会関係資本のメリットとして何を見出しているのか。
今のところ述べられているのは、一般互酬性の浸透による「取引コスト」の低下。信頼があれば、商取引に於いても安全保障に於いても、そのコミュニティ内では低コストでまかなうことができる。信頼がないコミュニティでは、あらゆる商取引に訴訟対策で弁護士費用を計上したり、私的な警備員を雇ったりせねばならず、効率が悪くなる、という主張だ。
ただこうした「取引コスト」をそのメリットに掲げることは、逆に社会関係資本の価値を取引コストの削減と言う議論に回収されかねない。信頼がなくなった?社会関係資本の危機?それで何が困るの?取引コストが上がる?じゃそれ下げりゃいいんでしょ?商取引を電子化、顧客の好みもアルゴリズムでぱっちり把握、セキュリティは監視カメラの出番。いやぁ先端技術って素晴らしい!取引コストばっちり下がりましたよ!
…ここまで極端な話は無くても、ソレに近いことは議論されていたり、また既に実装されていたりする。確かに全ての取引コストをテクノロジーで削減できるわけではない。ただ、どれだけの取引コストがかかりそうなのかと言う「予測」をテクノロジーが行うことで、それに近い状態はおきうるのではないか。それは全ての事例に於いてあらゆる可能性をあらかじめ提示し、それぞれの確立を計算した上で、各人にどのリスクを負うかの選択肢を提示するテクノロジー。リスクの可視化だ。*1
ただこれも、取引コストを下げるためのインフラのコストが高くつくという矛盾を生み出しかねないので、微妙ではあるが。
コミュニティの離脱者
あとゼミの冒頭で発表者のコメントに、一般的信頼が崩れたあとのコミュニティ像として、「義務と権利関係に基づいたコミュニティ」なるものを挙げられていた。法律ではなく、もっと細かい規則によってコミュニティ内の人々の関係性を規定しようというらしい。あまり本人は本気で考えていなかったといって笑っていたが、僕はちっとも笑えない。なぜなら現にそうした話はアメリカのゲーティッド・コミュニティの中で存在するからだ。コミュニティ内の家主が集まって結成する「HOA」が決定した「CC&R」という細かい規則は、まさにそうした人々の関係性を規定する規則だ。ただあまりに細かすぎて、そのコミュニティを脱退する人もいないではない。ゼミでは、そうした「コミュニティから離脱した/せざるをえなかった人」の救済措置が問題になりながら、明確な結論はでなかった。一つありうるのは、そうした離脱者が集まってまた別のコミュニティを結成すること。そこに合わない人はまた離脱して他のコミュニティを作り…と繰り返していけば、最後は誰かしらどこかのコミュニティに所属しうる。
だがこれでは、離脱を続ける人間のコストは跳ね上がるし、島宇宙化した各コミュニティ間の信頼性は保証されない。おそらくそこで何か問題が生じるだろう。
コミュニティの結束を強めようとすればするほど、その「結束型」的要素が強くなり、「橋渡し」的機能が薄れていく。どこで区切りをつけるべきなのかを議論するのがいいのか、それともそうしたトレードオフ的な関係を脱構築する手段を見つけるべきなのか。僕は、難しいとは思うが後者の道を歩きたい。
*1:本来のリスクとは、こうした予測の範疇を抜けた因子がリスクなのだという意見もあるだろうが、ここでは措いておく