『思想地図 vol.4 「想像力」』
- 作者: 東浩紀,北田暁大,宇野常寛(編集協力)
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2009/11/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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腑に落ちた『サマーウォーズ』評
夏に『サマーウォーズ』を見たが、僕は巷間の評に比して全く面白さを感じられなかった。その後 id:YOWさんの美術的な観点から語られた素晴らしい評(『サマーウォーズ』レビュー -サマーウォーズの「世の中」/ラブマシーンはゲームを「プレイ」したのか? - 蠅の女王)を見てなるほどと思うことはあったが、ストーリーにおいてあの感情移入の出来なさを説明できる道具立てが依然なかった。本書の東・宇野・山本・氷川・黒瀬の座談会は、虚構の中の虚構におけるキャラクターと読者(視聴者)の身体的な距離感の埋めがたさを上手く切り出してくれた気がする。もっとOZなりラブマシーンについての描写を強くして、技術と社会の結びつきをなんらか裏付けるアリバイが必要だった。でないとヒロインがいくら頑張ってアバターの集合体を倒したところで、他人がプレイするゲーム、それも花札というそうメジャーでない道具を使ったゲームのクリア動画を見せられているだけで終わり、こちらの気持ちの落としどころとしては「ナツキ頑張った!」しかなくなってしまう。だからこそウェルメイドと呼ばれているのだけれど、しかしその手の「良くできたオモチャ」は他にたくさんある。
そのほか、村上隆・東・黒瀬の座談会も面白かった。以前東・村上の対談では東が村上隆をぶっちぎって終わっていたのに対し、今回は座談会然とした座談会になっていた。
「市場」を作り出すということ
本書の発売に前後して、東浩紀はTwitterで思想地図の増刷や売れ行きに関して何度かコメントをしていた。思想地図は今まで今号含め4号出ているが、どれも発行部数は1万部を超えており、実売1万部を超えているものもある。
彼の活動を見ていると、若いころからコンテンツを作る側に回り、その後波状言論などを通じて、コンテンツが生まれる下支え、一種のプラットフォームを作り出すようになっていった。そして思想地図は、思想なり批評なりのジャンルで新しい「市場」を作り出そうとしている。プラットフォームというのは、そもそもある市場の中で何らかの枠を作って囲い込みを行い、その中で疑似的な市場を作り出す手法だが、思想地図は思想地図内部で完結することなく、思想・批評という市場を様々な場所で活性化させつつあるように思う。
もちろんその手の先達はいくらでもいるだろうが、紙媒体が生き残る唯一にしてベストの手法であり、逆にこの強度をWebのみで完結させることはできなかったように思う。