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生産性が高い

「エリジウム」を観てきた

エリジウムを見てきた。第9地区ほどディストピアの描写が面白いわけでもなく、とはいえユートピアの描写もあまり多くなく、世界観の面白さでは第9地区に劣る。第9地区と違ってディストピアとユートピア両方存在するのだが、別に尺はあまり変わってないので、当然密度は下がる。そもそも第9地区が「エイリアンが襲来した上に思ってたよりクズでスラム街に居着きやがった」という設定だけですでに大勝利なので、あまり比較しないほうがいいのかもしれない。

とはいえおっと思う部分もあった。エリジウムは地球から離れた宇宙ステーションなのだが、円の内側半分をくり貫いて居住スペースにしていたのは良いアイデアだった(ちなみにエリジウムのデザインはエイリアン2ブレードランナーを担当したシド・ミード。1975年にNASAに依頼されて描いたリング状のスペースコロニー図によく似ているらしい)。あとアーマダイン社CEOの社用シャトル(地球とエリジウムを往復する)が黒と赤の流線型で超Cool。全体的にガジェットはカッコ良かった。あとあれだけの砂埃の中びくともせず動くノートPC欲しい。絶対米軍欲しがる。中東用に。

WIRED VOL.9 (GQ JAPAN.2013年10月号増刊)

WIRED VOL.9 (GQ JAPAN.2013年10月号増刊)

WIRED日本語版 vol.9にブロムカンプ監督のインタビューがあった。彼は1979年のアパルトヘイト真っ盛りなヨハネスブルグで生まれた。94年、15歳の時にアパルトヘイト政策が崩壊。”エリジウム”は開放され、すべてが"市民”となった。もちろん現実の南アフリカにエンディングはなく、アパルトヘイト崩壊はむしろ電気柵や鉄条網の数を増やす結果になった。本作はそうした体験がベースになっているのだろう。

ストーリーの本筋からは離れるが、気になったのが個人情報をめぐる描写だった。劇中、地球でもエリジウムでも、氏名とそれに紐づく個人情報はモニタ越しにすぐ呼び出すことが出来る。顔を認識するだけで犯罪歴から病歴まで出てくる。それは「地球」と「エリジウム」という風に居住地を厳格に分け、管理する必要があるからだろう。江戸時代もそうだったが、人間を特定の場所に押さえつけて管理したい場合、どうしても国家によるハードな個人情報の管理が必要になる。そいつが「誰」で「今この場所に」いる「資格」があるのかチェックする仕組みを、対象となる領域全土「共通で」持つ必要があるからだ。

とはいえ、少なくとも日本では国民背番号制は普及していないし、これからもしないだろう。海外でもエリジウムほどハードに国家が氏名に様々な個人情報を紐付けて呼び出し可能にするというのは、メリットよりリスクが大きい。エリジウムのような管理体制はきっと未来永劫来ない。

とはいえ、僕らはインターネット上に日々個人情報をばらまいている。ばらまいている自覚無しに。ばらまくのはいいのだが、ばらまいたものを自分自身で管理出来る状態にないのがやっかいだ。逆にいえば、GoogleFacebookが本気を出せばメールアドレスやSNSのアカウント名1つから個人情報を高い精度で呼び出すことは可能だろう。国家が管理しているケースより、精度は下がる。100%正しくはないだろう。でも人によっちゃ95%くらいの精度なら多分出せる。おおかたそれで十分だ。

デモグラフィックな情報に、顔情報まで加われば、Google Grassを通じてその人の人となりを判断する情報をさっと(勝手に)呼び出せる時代はそう遠くない。そういう意味では、エリジウムの世界はわりとすぐ近くにあるのかもしれない。