読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

絶倫ファクトリー

生産性が高い

「文学フリマ」と「.review」

先週の日曜日、「文学フリマ」に行ってきた。筑波批評社は今回参加せず、完全に読み手として参加した。一番の目当ては、西田亮介氏の主催する「.review」のパッケージ版と、彼と市川真人氏との対談だった。

読みたいproject.review
Nothing found for Review-beta-2 Bunfree10

 『早稲田文学』を編集するかたわら、「前田塁」名義で『紙の本が亡びるとき?』などの著作を持つ市川真人氏と、新形態のメディア「project .review」の発起人で『思想地図』や『α-SYNODOS』などに寄稿する西田亮介氏を招き、現在のメディア状況についてお話いただく。
 同日同建物内にて開催される文章系同人即売会「文学フリマ」に今回初めて参加する西田氏は、不特定多数に業務外注する「クラウドソーシング」を駆使する「project .review」を立ち上げた。一方、元々「文学フリマ」を大塚英志氏とともに提唱・開催した一人である市川氏。TwitterUstreamなどのネットツールが普及する中、また印刷が手軽になった紙媒体のメディアや「イベント」の現場性をどう捉えているのか。
 近年、ネット上での無意識の流動性に警鐘を鳴らしあえて保守的に振舞おうとする市川氏と、むしろ場の生成や勃興に尽力する西田氏が、氾濫する〈ミニコミ2.0〉状況にそれぞれ異なる立場から見据える未来とは?

ウェブメディアと紙メディア―アーカイブとコンテクスト

トークイベントの内容は、僕を含めたtsudaりとそのまとめがある。

トークイベント 〈ミニコミ2.0〉~メディアと流通の機能~ - Togetter

「なるべく価値判断をせず、場を作る役に徹したい」という西田氏に、市川氏が「でもそれってメディアの中でメディア論をやる、メタメディアの方向に行きがちじゃないですか」と問いかけるという展開で、それ自体は「.review」以前からよくあるものだ。なので、

という感想を持たざるを得なかった。
ウェブ上のメディアは、その性質上、メディアとしてもアーカイブとしても機能する。検索エンジン経由でのアクセスや、他のサイトからのリンクをたどってアクセスしたユーザーが見るコンテンツは、そのメディアの一部として認識されないまま読まれることがままある。ウェブのメディアは、(スタッフのやる気とサーバーが続く限り)半永続的に更新され、同時に半永続的に膨張するアーカイブでもある。紙のメディアは、ウェブのように半永続的に更新されるということはない。雑誌にしろ新聞にしろ定期的に刊行はされるが、メディアそのものは一度作られてしまえばそれきりだ。このことは、コンテクストという、メディアには欠かせない要素の形成に大きく関わってくる。
紙のメディアは、基本的に買ってしまえば中身が自動アップデートされることもなく、また物理空間を占有する。そのためウェブと比べて、アーカイブにはあまり向かない。一方でこの物理的制約は、掲載されているコンテンツがそこにパッケージされている意味を半ば強制的に作りだすことができる。なぜこの著者のこの文章があの著者のあの文章と同じパッケージに含まれているのか。なぜ「あれを載せてこれを載せない」という選択が発生したのか。その設定の担い手は作り手/読み手両方にあるものの、コンテンツ単位での消費が可能なウェブのメディアと違い、紙メディアの方がコンテクストを作りやすい。

メディアを立ち上げやすい環境ができているのは、ウェブだけではない。紙メディアもツールや告知手段の進化によって、非常に作りやすくなっている。そして文学フリマが最大の証拠の1つであることは言うまでもない。なので西田×市川対談では、そういった環境の変化とメタメディアの隆盛は前提としつつ、ウェブと紙両方でメディアを展開する際にどういった戦略の差を付けるのかを議論してほしかった。

対談の中で西田氏は

という趣旨の発言をしていた。ウェブではこのスタンスも可能だろう。ただ今回の文フリにおける『.review001』のように、紙のメディアとして世に出す際、なんらかのコンテクストを作らなければ、マネタイズは難しい。もちろんこんなことは釈迦に説法と分かりつつ、対談としてはもう少しそこらへんに踏み込んで欲しかった。

『.review001』

で、肝心の『.review001』である。ひとまず上から順番に

「現代のコミュニティとは何か」TSUTAYA TOKYO ROPPONGI 西田亮介×宮台真司

渡辺明日香「ストリートファッションの可能性」
松山貴之「これからのファッションブランドのあり方−「あこがれ」から「コミット」への転換−」
松永英明「ライフスタイルとしての「小悪魔ageha」と「森ガール」分析」
上原拓真「第三の広告― エゴフーガリストの生み出す力と育てる力 ―」
花房真理子「アニメ声優の消費者分析」
TBS 文化系トークラジオLifeプロデューサー長谷川裕氏インタビュー
建築
中川大地「ALTERNATIVE WAYS 東京スカイツリー論」
荻原知子「「個室化」する都市−仕切られたい私たちの居場所論−」

まで読んだ。「Life」の「黒幕」こと長谷川氏のインタビューがとてもよい。「Life」誕生前夜の、氏の仕事と「やりたいこと」の葛藤というかもやもや感がとてもLifeっぽい。外で読んでいてにやにやしっぱなしだった。
論文は「ALTERNATIVE WAYS 東京スカイツリー論」と「「個室化」する都市−仕切られたい私たちの居場所論−」が気に入っているのだけど、それは単体で面白いという意味と「続きが読みたい」と思う意味両方だ。文字数の関係なのか分からないが、面白いけどもう少しボリュームのある中で読みたいと思うものが多い印象を受けた。
ちなみに巻頭の西田×宮台対談はアツい。読み進めれば読み進めるほど自分の心の弱い部分をガシガシ削られるが、だからこそ読みたいというマゾっぽさを持ったうえで読む覚悟が要る。

ちなみに、上で長々と書いた「コンテクスト」の話だが、西田氏が巻頭言でこっそりと「希望とその実践可能性」という隠れテーマに言及している。ここ本当はもっとアピールした方が良かったんじゃないかと個人的には思っている。おそらくこれを前面に出すと何らかの価値判断をせざるを得ないという価値判断が働いたのかもしれないが、(全コンテンツを読んだわけではないので断言できないけれど)、なるほどと思うテーマでもある。東京スカイツリー論などまさにそのものだし。個人的にはこうしたコンテクストは、メディアを作る中で無意識のうちに投影されがちなものだと思っている。ので、もし今後も紙で『.review』が発行される際には、がりがりコンテクストなりテーマなりを前面に打ち出してもいいような気がしている。