読書欲再燃?
最近ゼミ論用の本を中心に本を欲している。読書のスピードがけたたましく遅い俺としてはわりと速いペース。
- 作者: 五十嵐太郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2004/07
- メディア: 新書
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アマゾンのレビューは割りと散々だが、この本に何を求めるかによって評価は変わる。
日本のセキュリティ過剰な現状を憂い、批判し適切な提言を求めるのであればこの本に期待してはいけない。批判のロジックがもはやロジックではなく、単なる筆者の感想文。しょうもない。
ただこの分野に興味があり、これから自分で調べて行きたいという人にはお勧め。具体的事例はやたら豊富なので、カタログ気分で見ればこれほど便利な本もない。筆者の主張は確かに弱いが、主張なんか自分で組み立てれば良いのだ。筆者が肝心の結論部分を落としてくれているので、我々は論文なりレポートなりでオリジナリティを十分に発揮できるだろう。
- 作者: 東浩紀,大澤真幸
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2003/05/01
- メディア: 単行本
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今更か!と突っ込まれそうな気もするが、環境管理社会について詳しく知りたかったので。
いや面白い。前編通して面白いが、やはり第一章が新鮮で惹かれる。
3年経った今でも、環境管理型権力によって失われる「それ」が何なのか、東の言葉で言えば「匿名性」、大澤で言えば「偶有性」が具体的にどう回復すればいいのか、日本の社会は結論を出していない。
ところでこの本のみならず環境管理型の典型例に良く挙げられるアマゾンのお勧め商品。従来のマーケティングが、例えば40代・男性・サラリーマン、が顧客の場合同じカテゴリに属する他の人間の購買履歴を参照しリコメンドする「横の履歴」のに対し、アマゾンの画期的とされるところはその人が過去にどういうものを買ったのかを参照しリコメンドする「縦の履歴」型である点。とされているのだが、これって特に新しいわけではない気がする。
今みたいな大量生産大量流通のスタイルが確立される前、あるコミュニティに例えば肉屋が一軒しかなかったり、魚屋が一軒しかなかったりすることがあったはず。そうすると、肉が欲しければその一軒にいくしかない。小規模で家族経営だから、相手をしてくれる店員は大体毎回一緒。そのうち家族の好みとかも覚えてきて、「あんたんとこの旦那はこの肉が好きだったわよね!」とか言って品物をリコメンドしてくる。縦の履歴を参照してくる。
ま、この場合参照してるのは「コミュニケーションの履歴」であり、問題なのはアマゾンが「データベースの履歴」を参照している点なんだろう。逆に言えば上記のような近代以前の小規模コミュニティに果たして「匿名性」「偶有性」が存在したのかとちと疑問に思ってしまう。いやあったんだろうけど、それをそれとして認識する必要性が出てきたのが近代、ということか。
- 作者: 阿部潔,成実弘至
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 2006/09/06
- メディア: 単行本
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今年の九月に出た新しい本。装丁はハードだが字も大きく文体も読みやすい。
ゼミ論に役立ちそうだと思ったのは第四章までか。それ以降もパラパラと読んだが。
6人の著者がそれぞれの分野の立場から「空間」と「管理」について述べている。具体例も豊富で面白いのだが、上記「自由を考える」を読んだ後だと物足りなさは否めない。第一章の阿部潔が提示した「自由な空間」「空間の自由」という言葉は面白いのだが、それとて「規律訓練型権力」「環境管理型権力」の換言でしかない。彼は「空間の自由」が奪われることで、「予期せぬもの」「おもいがけぬもの」に遭遇する可能性が排除されているというが、本当の問題は、現状が一見すると排除されて構わない可能性しか排除されてない点にある。「予期せぬ事故」「思いがけぬ犯罪」をセキュリティが確実に仕留め始めている以上、そうした批判の仕方は見事に説得力を失っている。監視カメラの有用性が事後的であると言う指摘も、結局スキャンニングとモニタリングの精度を上げろという主張に利用されかねない。
というかそうした点は東や大澤が2003年に「自由を考える」で散々述べており、彼らがその中で述べたことがより確実に現実のものとなっていったのがこの3年間ではなかったのか。だとするならば、阿部の議論は3年前から半歩後退したに過ぎないものではないか。