ラピュタ、もとい軍艦島に行ってきた。
GW中、今話題の軍艦島に行ってきた。もともといく予定を立てていたところ、上陸の前々日に世界遺産登録の勧告が出た。
軍艦島の凄さとは何か。一言でまとめてしまえば、陳腐だが「圧倒的なラピュタ感」だ。単なるアパートや炭鉱跡地の廃墟は他にもある。違うのは、
- 島まるごと廃墟というスケールの大きさ
- 縦横無尽にコンクリートの塊が敷き詰められた密度の高さ
- そしてそれがわずか40年前まで日本で最も近代的な場所だったという事実
技術を先鋭化させ土から離れた結果、人が生きられなくなったラピュタそのものだ。
人のスケールを超えた空間
軍艦島は、当時の最先端技術で採炭を始めてから80年で最盛期を迎えた。そこから閉山して今の廃墟と化すまで半分の40年。これは長いのか短いのか。僕らがピラミッドを見るとき、これが何千年も前にあったのか、そして何千年も残っていたのか、という「長さ」に着目する。けれど軍艦島に対しては、むしろ1km四方もなかったただの岩礁が120年で繁栄と衰退を経験したというその短さに驚く。
軍艦島で生活していた人々の様子を知っていれば、尚の事だ。事前に軍艦島の写真集を買って見ていたが、島に生きる人々の表情は、言われなければ軍艦島の島民だとは分からない。そこにはごく普通の、いや彼らの給与水準からすれば普通以上に都市的・現代的な生活が、そこにはあった。あったはずなのだ。
- 作者: 端島閉山40周年記念事業実行委員会
- 出版社/メーカー: 忘羊社
- 発売日: 2014/07/05
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
だからこそ、実際に島に上陸したときの、「人が生活していたとは思えない」感じには驚いた。軍事施設だったと言われればまだ納得がいく。巨大な鉄筋コンクリート造のアパートが、あれだけ狭い間隔で並んでいるのは見たことがない。しかも急勾配の岩礁に沿って建てられているため、三次元的にコンクリートの塊が敷き詰められているのだ。外から見れば軍艦だが、中から見ても要塞である。進撃の巨人実写版のロケに使われたらしいが、確かにこれは人間のスケールではない。巨人のスケールだ。
廃墟としての軍艦島の魅力
ツアーはあっという間だった。全体からすればわずかでしかない見学許可エリアですら、充分に見れたとは思えなかった。もっと色んな場所を見て、人が生きていたのだという「証拠」を見つけたかった。それは単なる冒険心の言い換えでしかないかもしれない。とはいえ軍艦島に限らず、廃墟の魅力はそういうものな気がする。廃墟は人間と自然の意図せざる合作芸術だ。建築物自体は人間の所業だが、廃墟に至るには自然の力が必要だ。もちろんそこには時間という強い変数が存在しているのだが、軍艦島は、そのスケールに釣り合わない、極めて短い時間で作られたスピード廃墟である。ただの岩礁が最も近代的な生活を送ることの出来る場所になり、そしてあっと言う間に無人の廃墟に帰した。この栄と枯、盛と衰のギャップが軍艦島の本質的な魅力であり、僕らの冒険心をくすぐるのではないか。
軍艦島ツアーのガイドさんがこんなことを言っていた。軍艦島に関わる人々は、軍艦島を「保存しよう」とは言わない、あくまで「保全」だと。長期的にこの島がただの岩礁に戻ること自体は避けられない。人に出来るのはメンテナンスを行いその時を先延ばしにすることだと。廃墟が人間と自然の合作である以上、時間の流れを止めることは廃墟にとって本質的な改変であり、仕方ないと思える。一方軍艦島を廃墟ではなく遺産と捉えるとまた話は大きく異なると思うのだが、それについてはまた今度どこかで書こうと思う。